7月17日、都内にある養鶏場「牛の歩みGROUP」さんとビデオ通話で取材をさせていただきました。
取材をしようと思ったきっかけは、日本の養鶏場の問題点からです。日本は90%以上の養鶏場がバタリーケージと呼ばれるケージを使用しており、そのケージの中で過ごすニワトリたちは身動きもろくに取れず、斜めった床の上で足を踏ん張らせています。ケージ内にはニワトリ間の力関係があり、弱い個体は餌を食べられなかったり、他の個体の下敷きになり死んでしまうこともあります。病気になっても怪我をしても多くの場合、なんの治療も施されません。このように、日本のほとんどの養鶏場は、利益と効率だけを重視し、動物福祉を無視しているのです。欧米やヨーロッパではこのようなケージ飼育を禁止する動きが高まっています。アメリカでは6州が禁止、EUでは2019年に52・2%がケージフリーに、スイスでは100%ケージフリーになっています。
メンバーの1人は日本でのニワトリのケージ飼育を廃止するよう求める署名を立ち上げようとしました。しかし、他のメンバーの提案で「養鶏場のことを何も知らないのに批判するのはいけない。養鶏場に取材をしよう」という話に。
いくつかの養鶏場にメールをしましたが、ほかの養鶏場からは連絡が返ってきませんでした。返信してくださった牛の歩みGROUPさんは、「平飼い」という飼い方をしており、これは先程紹介したバタリーケージ飼育よりニワトリが快適に過ごせる仕組みです。
今回、窪田様にお話しを聞きました。(以下、インタビュー)
①今、窪田様がご病気ということですが、養鶏場の鶏たちはどなたが管理していらっしゃるのですか?お父様ですか?
また、今後養鶏場が存続できなくなった場合、鶏たちはどうなるのですか?
→残念ながら、2019年11月に急性骨髄性白血病で緊急入院し、全て廃鶏処分を決断しました。その理由は2ヶ月半程父が代わりに管理していましたが、鳥インフルエンザがかつてなく大流行する中で、父の飼育管理技術や理解では充分に安全性を確保できない事が分かっていました。鶏病発生の責任が取れない為、決断せざるを得ませんでした。
②日本獣医生命科学大学で学びなおされたということですが、そこではどのようなことを学びなおされたのですか?また、学び直す必要性を感じたきっかけなどはありますか?
→2017年から衛生管理についてやウイルスや細菌のこと、動物の病気を防ぐ社会的な取り組み(防疫)についてや免疫学、家禽や畜産施設について有機畜産についてなどです。学び直しのきっかけは学芸員資格を取得したときに、社会人のリカレント教育の機会が拡大していることを知りました。武蔵野自由大学で日本獣医生命科学大学の正規授業を聴講できることを知り、病気や衛生管理を強化したいことがきっかけでしたが、より広く深く理解したくて3年程通いました。基礎的な知識を身につけることで、現場で気がつくことも増えて実践に結びつけることができました。
③長い間養鶏場を営まれてこられましたが、約30年間ずっと平飼いを続けてきて、平飼いの大変さ(デメリット)とメリットを教えて下さい。また、実際費用はケージ飼育よりかかるのですか?(⑤にもつながる質問です)
→平飼いの大変さは、一般的に動物福祉としてケージよりも優れていると思われていますが、管理に失敗すると、より残酷な状況になることもあります。ですので鶏の行動、性質を充分に理解し、細かな調整管理をする必要があります。
例えばケージではストレスで互いにつつきあう行動を、狭い場所に閉じ込める、嘴を切る(デビーク)、薄暗くして見えなくするなどで防いでいます。最初に「ストレスを与える」事で闘争し、つつき合うのですが平飼いだからストレスがないと言うほど単純ではありません。
1 餌と水が必要充分なだけある
2 給餌面積が足りていて平等に並んで食べられる
3 掃除が行き届いて、アンモニア濃度が低い
4 産卵箱が羽数に対して足りている
5 外敵などの不安がないなど、
日々変化する様々な要因を把握して管理しなければ、闘争を始めて弱い鶏を突き殺してしまいます。飼育面積が広いから起こらないと言うものではありません。ですので毎日の観察と記録が大切だと言うこととともに、観察できる目も必要です。事故にすぐに対応できる体制が必要なので休日が取れません。
メリットは、鶏が幸せでいてくれるように努力できること。緑餌を与え、土間に腐植土やチップを敷きます。嘴でつつかせたり、脚でミミズ等を探したり、自然な行動をさせることができ、かつ腸内環境も整うため健康に過ごせると思います。また緑餌でコクのある卵になります。
費用的な問題は、ケージから新たに平飼いや福祉ケージに転換する場合の初期費用は当然相当にかかると思います。現在の大規模な養鶏場が全て転換できるかというと疑問には思います。ケージ養鶏の利益率が非常に低いこともあります。それで一個10円の卵が可能になっています。
施設費の初期投資の問題だけでなく、ケージであれば0.1m2に2〜3羽収容されますが、私の平飼いでは3.6×5.4m=19.44m2に30羽以内の収容羽数でした(通常はもっと多く収容します)。単純に面積比率で21.67倍です。そして平飼いはケージや福祉ケージと異なり、立体的に積み重ねることができません。そう考えると単純な計算でも10円の卵が216円で販売しないと採算が合いません。また労働の量も自動化の限界があるので増えます。労賃を加算したら毎日消費する卵としては高すぎると思います。これをどう克服するかです。
④なぜ日本の多くの養鶏場がケージ飼育を行っているのに対し、平飼いを選ばれたのか、理由をお聞きしたいです。
平飼い養鶏に魅力を感じました。やればやるほど面白いと思います。また都市の中の小規模な養鶏として消費者にどんなメリットがあれば、業として多少なりと成り立つのかを考えた結果です。鶏たちも生きている間は幸せに暮らせる努力をしたいとも思います。ただ全ての人の食卓に役立てる価格というのは難しいと思います。
⑤現在ケージ飼育を行っている養鶏場が平飼いに転換する上で難しい点は何でしょうか?(金銭面などでしょうか?詳しく教えていただきたいです。)
私の経験してきた養鶏規模で、この問題を詳細に検討するのは少々難しいし、失礼が起こる可能性もあると思います。ただそういう前提のもとで一般論として考えてみるとしたら、先程も書いたように収益率の低い中での設備投資の負担、そして技術の習得、マニュアル化の難しさ、労働負担の増加、販売価格の変動リスクなどが考えられます。国民の全員に安価な卵を供給することができるかどうか、それを生産現場が全て背負う余力は「物価の優等生」にはないのではないでしょうか。
(SIFによる追記: 近年温暖化などにより飼料のコストが上昇し、多くの養鶏場が苦しい状況にあるため、それに加えて飼育形態を変えることは大きな負担になるそうです。また、日本は飼料を他国からの輸入に頼っていることも飼料の価格上昇に繋がっているといいます。日本で生産した場合、耕地面積も狭く人件費もかかるため結果的に値段が高くなってしまうそうです。)
⑥窪田様の養鶏場の鶏たちは、毎日どのように過ごしているのですか?(砂浴び、日光浴など詳しいことをお聞きしたいです。)
かつてどうだったかになりますが、朝、明るくなる前に起きます。止まり木から降りて給餌時間まで土間でのんびり過ごします。時間になると催促が始まります。食べ終わると止まり木の上で羽繕いをします。産卵したくなると気に入った産卵箱を探して、ほぼ午前中に産み終わります。後は止まり木に止まって寝るまで、土間でつつけるものを探したり、仲間同士何か見つけては追いかけっこをしたり、日光浴をしたり、交尾をして過ごします。夕方暗くなる前には止まり木に上がります。
(SIFによる追記: 基本的に安心できる環境にいればニワトリたち🐓は朝以外とても静かだそうです。管理が悪い環境だと騒いでしまうといいます。
ニワトリは本能的に暗い場所で卵🥚を産みたがるので暗い産卵箱に入って卵を産んでくれるそうです。)
⑦窪田様の、鶏のケージ飼育についての考えを詳しくお聞きしたいです。(なんでも構いません。例「改善してほしい」とか、「しょうがない」など)
鶏の側に立った場合は改善すべきですが、人間の側に立った時に誰がそのコストをどう負担するかが課題です。家計にゆとりがもてない方が卵を食べられないという所得格差が生じる問題もあります。私自身はケージ養鶏の鶏の声を聞きたくないと思っています。ただ平飼いであろうとケージであろうと面積だけで福祉に適っていると言えないことは書いた通りです。管理次第です。福祉とコストの関係が解決できる方法があるといいですが、養鶏業だけで考えても解決しない問題のような気がします。つまり社会でそのコストをどう負担できるのか、消費者も考えなければならないのではないでしょうか。
窪田様、ありがとうございました!
お話を聞いて: やはり、当事者の方(実際に関わっている方)にお話を聞くのが一番だし、自分たちの知らないことに気づくことができます。現実を知らないでネットの情報のみを見て批判するのではなく、話を聞いた上で何ができるかを考えていかなければならないと改めて確認しました。そのうちケージ飼育を行っている養鶏場の方にもお話を聞けたらと思います。
そして、窪田様もおっしゃられていたように、社会全体がこの問題を考えていかなければ、解決しないと思います。問題を知らない多くの人に、まず「知ってもらう」ために努力していきます。
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